しんば一時、珍しがって買い込む者が出ましても、あとが続かなければ資本も倒れ、仕事をする者の腕も腐ってしまいまする。その辺についての御意見を伺《うかが》いたいものでございますが……」
「それは尤《もっと》もだ、そこらを考えて置かぬことにはこの問題は持ち出せないはずだ。ところで、こちらはその辺を多少研究している、長崎までも出張して、いろいろと調べてみたが、外国を相手とするとなると、何かといううちに最も利益のあるのは生糸だ、絹だと見込みをつけてしまったのだがどうか」
「なるほど」
「シルクだな――蚕《かいこ》を飼って、糸をとって、その糸をまとめて売る、外国ではそれを独特の技術で精製してシルクにするのだ。あれならば最も西洋人の嗜好にもかない、かつ、西洋に於ては婦人の服装はもとより、家内の装飾用その他、無限に需要がある。それからまた、東洋の生糸は確かに性質《たち》がいいそうだ、それからまた蚕を飼う技術というものが日本では優れているし、蚕の食物とする桑の木の発育も極めてよろしい。それからまた一定の工場や、多分の機械を備えずとも、いかなる寒村|僻地《へきち》でも、家々でその有合わす手だけで充分に生産
前へ
次へ
全439ページ中389ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング