知でもございましょう、それは土佐の坂本先生が、紀州家から受取った伊州丸の償金なんでございます」
「なるほど――そういうことがあったな」
「あれが坂本先生の腕でございましたよ、なかなか凄い腕でございます」
「うんうん、坂本が自分の方から舟をぶっつけて沈ませて、紀州へ難題を持ちかけ、首尾よくせしめたということは聞いていたが、それをその方が預かっていたのか」
「わたくしが現在お預かり申しているというわけではございませんが、わたくしが融通を致しましても故障の出所のないことになっております。しかし、無条件でどなたを嫌わず、おおっぴらに融通のできるという性質のお金でもございません。先刻も申し上げます通り、その人を得ませんでは……その人と申しますと失礼ながら、あなた様なぞは、たしかにそれを生かしてお遣《つか》い下さるお方と存じまして、ついこんな秘密を申し上げてしまいました」
「それは本来、金銀というものは国家経済のために流通すべきものなので、死蔵して置くということは一種の罪悪だ、それに今は幕府をはじめ、諸侯という諸侯、みな経済的に疲弊していないのは一つもない、よいことを聞かせてくれた、ここで、その方
前へ 次へ
全439ページ中386ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング