見送りを失礼いたしまして、これから立帰って穴入りを致しますから、これで御免くださいませ」
と言って、幸内は後ろを向いて以前の墓地の方へ取って返した時分には、お銀様の姿は再び松柏の森の中に隠れてしまいました。

         六十九

 それから、かなり深い松柏の森の中を抜けきって、こなたの裾野へ現われたお銀様は単身でありました。
 ところが愛すべき新月は、相も変らず前額にかかって、お銀様の姿を見守りながら下界を照らしているもののようです。

 裾野とはいうけれども、もうここへ来ると、限り知られぬ広野原の感じです。胆吹《いぶき》、比良、比叡《ひえい》、いずれにある。先に目通りに水平線を上げた琵琶の水も、ほとんど地平線と平行して、大野につづく大海を前にして歩いているような気分です。
 お銀様は月に乗じて、この平野の間を限りなく歩み歩んで行くと、野原の中に、一幹《ひともと》の花の木があって、白い花をつけて馥郁《ふくいく》たる香りを放っている。その木ぶりも、太きに過ぎず、細きに失せず、配置に意を用いて植えたようなたたずまいですから、お銀様はその木ぶりを愛して、その香りに心を酔わしめられまし
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