そのおつもりで、御安心なすってお待ち下さいませ」
「ええええ、お前のために蔭膳を据《す》えて待っていますよ、早く帰ってちょうだい」
「わたくしも、それでなんだか、いっそう商売にも励《はげ》みがつき、自分の将来も安定したような気持が致します。では奥様、行って参ります」
「行っておいで、無事にね……」
 こういったような話し合いで、若い番頭を主人のともをさせて、信州路への旅へ送り出しました。
 信州へ出かけてからの商売も順調に行き、儲《もう》けも相当にあって、主従は早くも故郷の甲州へ向けて快く帰路についたのですが、その途中、ある山の中で、烈しい夕立に遭《あ》ったのが運の尽きでした。やっと道端の、ささやかな山小屋の中へ主従が逃げ込んで雨宿りをしたのです。まもなく霽《は》れることと思っていた雨も、意外に長降りをしている間に、旅の疲れで主人の方は旅装のまま、その山小屋の中で、つい、ぐっすりと寝込んでしまいました。商売の方がうまく行った安心と、旅の疲れとで、番頭がちょっと起しても起きられないほど、熟睡に落ちていたのです。
 あんまりよく眠っているところを見ているうちに、若い番頭の胸の中にむらむらと
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