もお銀様に向って挨拶は無く、お銀様もまた、最初から、とんとこの方はおかまいなしの体《てい》でしたが、ややあって、静かに歩みを移して、その閑却せられた一方の墓穴の方へと近づいて来ますと、さいぜんの穴の中から兵作の声で、
「おーい、若衆《わかいしゅ》さん、今お嬢様がお前の方へいらっしゃるから、よくお話をして上げてくんな」
そうするとこちらの穴の中から、若いやさ男の声として、
「はーい、承知しました」
と返事をするのです。はて、おかしいな、こっちの穴の中の兵作は、穴の中を深く掘り下げていながら、自分がおもむろに歩みをうつして一方の穴へ近づいて行こうとするのを、どうして認め得たろう。そうして、やはり穴の中から一方の相手に向って、頼まれもしない先ぶれを試みている。お銀様は面妖《めんよう》な相手共だと心に感じながら、その一方の穴へ近づいて、ほとんど中を覗《のぞ》きこむばかりにして見ると、
「お嬢様でございますか」
穴の下から、若いやさしい男の声なのです。こっちも、自分が来たのを、穴の中に見ず聞かずにいながら心得ているらしい。しかも、最初は兵作にしてからが「奥様」呼ばわりであったのが、ここへ来る
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