ているもんですから、何のことはないお蘭さんの投げた株を引受けて、追敷きを食わされ通し……全くいい面《つら》の皮《かわ》ですわ」
「それを繰返すのは愚痴だ、自分でいま言っている通り、災難と諦《あきら》めて、何もこっちに疚《やま》しいことさえなければ、素直《すなお》に、幾度でもお呼出しを受けるがよい、訊《たず》ねられたらば、知っている通りを洗いざらい返答してしまい、知らないことは知らないと正直に通せばいいのだ」
「そうおっしゃられると、それまででございますけれどもね、これでも人間の端くれでございますから、苦しいと思うこともあれば、癪《しゃく》にさわることもありますのさ。わたしもお蘭さんのように、自由が利《き》く身でありさえすれば、こんなところに、こうしてばかばかしい祟《たた》り目の問屋を引受けてなんぞいるものですか――どうにもこうにも動きの取れないわたしという者の身の上を、少しはお察し下さいましな」
「それは、人の運不運で、やむを得ないことだと言っているのに」
「運不運なんて言いますけれど、それはたいてい意気地なしの言うことですね――しっかりした人は、自分で自分の運を切り開いてしまいますか
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