ありませんか。そんなわけで――そんなわけですからお客様も、けんのんがって、お座敷もめっきり減ってしまいました。それは災難と思って諦《あきら》めましょうけれど……」
ここで、福松が思い迫って、おいおいと手ばなしで泣きました。無論、両袖でしっかりと宇津木兵馬の双刀を抱え込んでいる以上は、手ばなしでなければ泣けないわけなんですが、それにしても、あんまりあけすけな泣き方で、かえって興がさめるほどです。興がさめるほど露骨に泣いているのですから、それだけまた、思わせぶりのたっぷりな、手れん手くだというようなものが少ない。つまり、その泣き方は、芸者や遊女としての泣き方ではなく、子供の駄々をこねる泣きっぷりと同じようなものでした。色気のない泣き方であるだけ、それだけ、兵馬をしていよいよ迷惑がらせていると、
「あなたまでが、わたしを袖にして、寄りついても下さらないことが悲しうございます、寄りついて下さらないばっかりか、あなたまでがわたしを置去りにして逃げてしまおうとなさる、あんまり薄情な、あんまり御卑怯な、あんまり情けなくて、わたしは……」
と福松が、また、わあっわあっとばかりに泣き落しました。兵馬も
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