取扱おうとして、
「あ、ツ、ツ、ツ」
と言いました。たいしたことではないのです。鉄瓶のつるが少し焼け過ぎているのを、薬缶《やかん》の方は扱いつけているけれども、鉄瓶の方は、あまり扱いつけていなかったものですから、少々熱い思いをしただけで、また神妙に取り直し、それを流し元へ持って行って道庵が手ずから洗面にとりかかりました。

         五十

 その翌日、長浜の町は水を打ったように静かでありました。
 その前の日あたりの人民の動揺の低気圧は消散してしまったか、そうでなければあのまま凍りついてしまったようです。昨晩、篝《かがり》を焚《た》いたには相違ないのですが、今朝になって見ると、それが滞りなく炭の屑に化してしまっていただけのもので、その篝火の下で、なんら異状のものの出没が照し出された形跡はありませんでした。
 少し今朝、調子が変った点がありといえば、それは、いつも早起きの町民が、少々眼の醒《さ》め方が遅いかとも思われるくらいでしたが、その時分、ひょっこりと八幡町の町の辻へ姿を現わしたのは、弁信法師に相違ありません。
「ええ少々、物を承りとうございますが、りんこ[#「りんこ」に傍
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