の方へ行ってしまったようです。
 では弁信さん、かねて竹生島へ行きたい行きたいと言っていたが、我慢しきれずに今朝でかけてしまったと見える。湖水巡りをする時は一緒にしましょう、と約束をして置きながら、ひとり出しぬいてしまうのはひどい。それは、弁信さんはただの遊覧と違って、竹生島の弁天様へ琵琶の方で特別の心願があるのですから、一緒にはならないかもしれないが、行くなら行くように、わたくしに一応挨拶をして下さってもよかりそうなものを、ひとりで行ってしまうのはヒドい、とお雪ちゃんは、心の中で少し弁信を恨みました。
 それだけではない、昨晩出て行った人が一人も帰っていないではないか――宵のうちのことはここに思い出すまい、あの親切な米友さんがいない、もう帰って来そうなものだ、とお雪ちゃんはそれを心配しながら、
「先生、どうぞお手水《ちょうず》をお使い下さいませ」
 鉄瓶《てつびん》の湯をうつして、道庵先生のために洗面の用意をしようとすると、
「まあ、いいよ、病人は病人のようにしていなさい、愚老なんぞは、一切万事、人任せでげす」
と言って、お雪ちゃんがかよわい手で下ろそうとした鉄瓶を、道庵が自分の手で
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