は思われないのですが、しかし本人も、この昏迷きわまる状態のうちにありながら、たしかに水を呑まんと欲する意識だけは動いていると見え、米友の口移しにした水の三分の二ぐらいは唇頭から溢《あふ》れて、頬と頸へ伝わって流れ去るのですけれども、三分の一程度は口中へ入るのです。そうして、そのまた幾分かが口中に残り、幾分かが咽喉を通り得るものと見なければなりません。
 米友は誰に憚《はばか》ることもなく、また憚る必要もなく、二度も三度もその給水作業を試みました。水が通じたというよりも、米友の神《しん》が通じたのでしょう、たしかに見直した、もうこっち[#「こっち」に傍点]のものだ――という希望の光が、米友の意気を壮《さか》んにしました。
「だから、言わねえこっちゃねえ」
 この時は、もう烈しくゆすぶることをやめて、寝る子を母があやなすように、米友のあしらい方の手加減が変りました。
 事実、それは米友の糠喜《ぬかよろこ》びではありませんでした。お雪ちゃんは刻々に、著しく元気を恢復《かいふく》して行くことがありありとわかります。米友はまた、片手をのばして燈心を掻《か》き立てるだけの余裕を作ってみると、その増
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