仏御前に寵愛《ちょうあい》を奪われましてから後の、わたくしたちの運命というものは、御承知の通りでございまして、すべての世界も、人情も、みんな一変してしまいましたが、ただ一つ変らぬものとして、ごらん下さいませ、この井堰《いぜき》の水の色を……」
と言って、美人は後ろを顧みて漫々たる池水を指し、
「わたくしたちのあらゆる栄耀栄華《えいようえいが》のうちに、ただ一つ、これだけが残りました」
と言って、美人は相変らず水門に腰をかけた卒塔婆小町のような姿勢で、うしろの池水を指さしながら、
「この池と、この井堰と、この用水とは、わたくしが六波羅時代に掘られたものでございます、それは、わたくしの生れ故郷の人たちが、水に不足して歎くところから、わたくしが費用を出して、この池と、塘《つつみ》と、堀とを、すっかりこしらえさせてやりました。なに、天下の相国《しょうこく》の寵愛を一身に集めたその時のわたくしたちの運勢で申しますと、こんなことは数にも入らないほどの仕事でございました。わたくしはただ、ほんのお義理をしてやる程度の思いで、自分では忘れてしまっていたくらいの仕事が、どうでございましょう、今日になって見
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