も右のさむらいを先頭にして、この群衆の姿は全部村の中に隠れてしまいました。
 そこで、川原の中に止まる者は、はや宇治山田の米友と、両替の駄賃馬ばかり――それも、いつまでこうしていなければならぬはずのものではない、ともかく、市《いち》が栄えてみると、自分たちは、自分たちとしての引込みをつけなければならない。
 かくて、米友は、おもむろに馬を曳《ひ》いて、川原の中から、こちらの堤の上へのぼって、仮橋のある柳の大木のあるところまでやって来たのであります。が、そこで米友が、まず目についたのは、その柳の木の下に一つの立札があって、これに筆太く記された字面《じづら》を読んでみると、
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「姉川古戦場」
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 ははあ、なるほど、この川が昔の合戦で有名な姉川か。
 更にその立札に曰《いわ》く、
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「元亀元年織田右府公浅井朝倉退治の時神祖御着陣の処」
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 ははあ、そうか、太閤記の講釈で聞いているところだ。さすがの織田信長も、この時の戦《いくさ》は難儀だったのだ、徳川家康の加勢で敗勢を転じて大勝利を得たということは知っ
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