の町の辻に於ける獲物に覘《ねら》いをつけていると見れば見られないこともない。
 前例によると、こういう待機の姿勢には、危険きわまりなき事変が予想される。その昔、甲府城下の闇の夜半の例を以てしても……
 さすがに長浜の町の人々はもう先刻心得たもので、それ故にこそ、あの通り昼の如く町々辻々の隅々まで、篝火を焚いている。してみると、虎視眈々たる物影も、迂濶《うかつ》には足を踏み下ろせない道理です。
 長浜の町の辻の方にばかり気をとられていてはいけない――ちょうどここに突立って虎視耽々たる物影が、最初たどって来た方面の道から、春照からの表参道を外れてお中道《ちゅうどう》かと疑われたそれと同じ道を、こちらへ向って、平和な会話の音をさせながら、たどたどと歩み来《きた》るたった一つの提灯《ちょうちん》がありました。
「お母さん、あれが長浜の町ですか」
「そうです」
「篝火が盛んに燃えていますね、あれ、陣鉦《じんがね》、陣太鼓の音も聞えるではありませんか」
「さあ、お前、あれにつれ、あんまり勇み足になってはいけませんよ、勇士はいかに心の逸《はや》る時でも、足許を忘れるものではありません」

     
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