勢によって、それもみな幾分か殺気が緩和されて来《きた》りつつあるもののようです。
 で、竹槍、鍬《くわ》、鋤《すき》の類をはじめとしての得物《えもの》は、それぞれ柳の木に立てかけられたり、土手の上に転がされたりして、双方が素手《すで》で無事に入り交って、といっても中心に絶えずその理解を説いている浪人姿のさむらいを置いて、おのおのの主張を口舌で取交しはじめていることも、ハッキリわかりました。
 つまり、要領はこうなんです、右の浪人姿のさむらいが現われて、
「君たち、そう一途《いちず》に得物を持って殺気をたててはいかんじゃないか、水が切れたからと言って、血の雨を降らすなんぞは愚かな儀じゃ。じゃによって、一応双方から委員を選んで、評議をこらしてみちゃどうだね。本来、責任は天にあるのじゃ、天が雨を降らせてくれないのだから、恨みがあれば天へ持って行くべき筋じゃ。喧嘩をするとすれば、天を相手に喧嘩をしなければならないものを、それを人間同士がなすり合って、血の雨を降らそうということはいかん。そこでじゃ、この水門の水を、穏かに、相談ずくで、適度に分配することにしちゃどうだ――たとえば、朝の何時までは甲
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