。
稼業《かぎょう》を休んでさ――年に一度か二度のお祭なら仕方がねえが、見たところ、これは決してお祭じゃねえんだ。
ちぇッ――
米友は、冷笑しながらそれを見ていると、事の体《てい》そのものは全く冗談《じょうだん》でもなければ、いたずらでもない、好きでやっているわけでも、病で狂っているわけでもない、まして、お祭騒ぎでなんぞあるべき余裕や賑《にぎ》わいはちっとも見えないのみならず、明らかに殺気そのものが紛々濛々《ふんぷんもうもう》と湧いているのです。
四
今や、最初に米友をめざして突き進んで来た両岸の十数名は、それは先陣でありました。
先陣は勇者中の勇者のすることです。米友を的としての槍先はこのとき全くそれたが、槍と槍とが川原の真中で出逢ったところですなわち白兵戦が演ぜられるのかと思うとそうでなく、ある地点へ行くと、また急角度に槍先が変って、今度は両方の先陣とも、川をさしはさんで並行線になって、まっしぐらに駈け登って行くところを見ると、そこに水門口があります。
一方は井堰《いぜき》。
ちょうど、山崎の合戦で、羽柴軍と明智軍とが天王山を争うたように、この両
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