ぶすまは、米友を焦点とすることから明らかにそれ出したけれども、その相手が消滅に帰《き》したというのではなく、手取早く言えば、今度は米友とその馬とを抜きにして、ひたひたと竹槍同士の対抗の形となって、ジリジリ押しをはじめている。
「なあーんだ、ここでも戦《いくさ》ごっこがはじまってやがる」
と米友が冷笑しました。道庵先生が関ヶ原で演じた模擬戦を、ここでも誰かが模倣している。
 面白くもねえ――と米友がさげすみました。本来、米友は、道庵がするような芝居気たっぷりがあまり好きではないのです。紙幟《かみのぼり》を押立て、模造大御所で納まり返って、あたら金銭と時間をつぶし、いい年をした奴が、戦争ごっこをしてみたところで、何が面白れえ――
 子供じゃあるめえし――と言って、米友がさげすむのも無理はないのです。道庵先生は、本来ああいうことが好きに出来てるんだ。つまり病なんだ。病では死ぬ者さえあるんだから、どうも、あの先生に限って、仕方がねえと諦《あきら》めてるんだが、病でもなんでもねえ、いい年をした奴等が、こう大勢寄り集まって、あっちでもこっちでも戦争ごっこをするたあ、呆《あき》れ返ったものじゃねえか
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