」
「廊下のしまりの方もお頼み致しますよ」
「よしきた」
すべて抜かりなく締めきってしまって、さて二人とも、以前の座に戻ったけれども、お雪ちゃんは、もう絶対に銭勘定を繰返そうという気になれませんでした。
そこで米友は緡《さし》を取って、穴あき銭をそれに差込んでいると、暫くあってお雪ちゃんがその手を抑えるようにして、
「今晩はもうこれだけにしましょうよ、なんだか怖いから、お銭《あし》の音をさせないで頂戴な」
お雪ちゃんから哀求的に言われたので、米友も、強《し》いてとは進みきれない心持になりました。
こうなると、二人はもう寝ることだけの仕事が残っているようなものです。当然お雪ちゃんが言いました、
「お寝《やす》みなさいな、米友さん」
「お雪ちゃん、お前、先に寝みな、おいらまだ眠くねえ」
「でも、ずいぶん疲れてるでしょう、わたしがここにお蒲団《ふとん》を敷いてあげますから」
「いいよ、おいらはゴロ寝でかまわねえんだ、お雪ちゃん、お前、先へ寝な」
「でも、友さんを残して置いて、わたしだけ先へ寝るのは済まないわ」
「遠慮は要らねえよ、おいらのことは、人並みに扱わなくってもいいんだからな」
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