るが、ねえとなるとまるっきりねえのが金だ」
「全くその通りよ、お金持のところには唸《うな》るほどあっても、貧乏人のところには薬にしたくもないのですから」
「有るところには有り過ぎるほどあって、ねえところには無さ過ぎるほどねえ、そのくせ、誰もみんなこいつを欲しがっていることは同じなんだが、どうしてまた、こいつが集まるところへはうんと集まり、来ねえところへはちっとも来やがらねえんだろう。ケチな野郎だな、この銭金《ぜにかね》という野郎は……」
米友は数えかけた天保銭を二三枚取って、畳の上に叩きつけました。
二十一
宇治山田の米友は、特に銭金に数々の恨みがあるというわけではないが、また生立ちからしても、そう多分に銭金に恵まれつつ育って来た男ではないこと申すまでもありません。
だから、特に銭というものを呪い憎んだり、またその銭の集積によって勢力を得つつある資本家というものに、特別の戦闘意識は持っていなかったのですが、時々思わず昔のことを思い出して、銭の記憶というものに、あんまりいい気持のすることばかり無かったことが、むらむらと頭へ上って来たものですから、そこで無意識に
前へ
次へ
全439ページ中107ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング