二人は面《かお》を見合わせたのみならず、お雪ちゃんの如きは蛇にでも襲われたもののように、遠く一間ばかり飛びのいたくらいでしたけれども、つもってみればこれは少しも怖ろしい性質のものではなく、れっき[#「れっき」に傍点]とした所有主のお銀様から、用心棒としての米友が託されて、長浜まで両替に行って来たこの金銭――それを今、保管と収支とを託されているお雪ちゃんが、手にかけて、米友に手伝ってもらって計算に当ろうというのだから、形式に於ても、良心に於ても、少しも咎《とが》むべき筋ではないのであります。
ですから、いったん脅迫観念に襲われたお雪ちゃんも、たちまち思い直して近く寄って来て、散乱したのを掻き集めながら、改めて米友と共に、この小銭の山の取崩しから計算記帳にとりかかりましたのです。
この小銭を、種類によって、ザクリザクリとわけて数えながら言いました、
「有るところにはあるもんだなあ、金というやつは――」
「ほんとに、そうですね、有るところには有るものです、あのお嬢様のお家には、いったいどのくらいあるんでしょうかしら」
とお雪ちゃんが相槌《あいづち》を打つと、米友公が、
「有るところにはあ
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