す。そうすると、お雪ちゃんは火箸を鍋の中にさし込んで、その茹でられた栗の中から大きいのを一つ摘み出して、さいぜん米友が上向きに炉の真向のところへ置いた鍋の蓋の上に載せ、
「友さん、ゆだり加減はどうですか、ひとつお毒味して頂戴な」
「よし来た」
米友はそれを受取って、吹きさましながら皮を剥いて、食べ試み、塩梅《あんばい》を見ながら、
「そうさ、もう一時《いっとき》うでた方がいいだろう」
「そう」
で、新鍋は蓋を取られたまま、熱湯を縁《ふち》から落さない程度でしきりに沸騰をつづけておりました。
「明日は、これでキントンを拵《こしら》えて、友さんにも御馳走して上げますよ」
「有難え」
きんとん[#「きんとん」に傍点]をこしらえて、友さんにも御馳走をしてやるという言葉で、友さんにだけ御馳走するのでなく、友さん以外の人にも御馳走してやるという心構えがよくわかります。
事実――お雪ちゃんが、こうして引続き野菜の料理専門にかかっているのは、この変態家族の賄方《まかないかた》を引受けているというのみならず、このごろ入れた幾多の普請方の大工、左官、人足などにまで配布すべきお茶受けの糧《かて》まで
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