米友もまた心得たところもある。奔馬《ほんば》というものは、前から捉えるに易《やす》くして、後ろから追うにはこの通り骨《ほね》だが、そうかといって馬というやつは、蝶々トンボの類《たぐい》と違って、どう間違っても空中へ向けて逸走することはない。天馬|空《くう》を往くという例外もあるにはあるが、通例としてはせいぜい地上を走るだけのものである。ああしてせいぜい地上を走っているそのうちには前途から誰か心得のある奴が出て来て取捕まえてくれるか、そうでなければ馬め自身が行詰るところまで行って、立往生するか、顛落《てんらく》するかよりほかはないものだ――ただ、往来|雑沓《ざっとう》の町中ででもあるというと、他の人畜に危害を与えるおそれもあるが、その点に於てこういう野中では安心なものだ――という腹が米友にあるから、焦《あせ》りつつも、いくらかの余裕をもって走ることができるのです。
ところが、案に相違して、なかなか前途から、心得のありそうな奴が飛び出して取抑えてくれそうもなし、何かこの奔馬をして、行きつまらせるところの障碍物といったようなものも容易にないのであります。
ついに一つのやや大きな川原中へ飛
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