《しり》だ」
「え?」
「女は水に落ちて死ぬと、死体は上向きになり、男は下向きになるということだが、ここで見るとそうばかりではない、真白い女の臀っぺたが、搗《つ》き立てのお餅のように、幾つも幾つも浮いているところは見られたものじゃない」
「業《ごう》さらしです、女の風上には置けない」
「人間というやつは全くわからないやつだ、刀を抜いて見せたりなんぞすると、慄《ふる》え上って助けを呼ぶくせに、死にたいとなると、勇敢にああして後から後からと、この血の池の中に飛び込んでしまう」
「勇敢なのじゃありません、意気地なしなんです」
「どっちだかわからないよ」
「自分の身を粗末にして、それを見栄と心得る馬鹿者が絶えないのです」
「時に……」
と竜之助は少し改まって、断崖の欄干から後ろの岩壁へ背をもたせ、
「開墾事業の方はどうです」
「どしどし進行しておりますよ」
と、お銀様との問答が、全く別な内容へ向いて来ました。
「もの[#「もの」に傍点]になりますかね」
「もの[#「もの」に傍点]にしますとも」
「そうして、この開墾王国の女王の下に、何人ぐらいの人口が収容できる見込みですか」
「何人と制限はあり
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