ません、土地の生産の供給が許す限りは人を入れます」
「土地の生産の見込みはつきますかな」
「それは、つかないはずはありません、苟《いやしく》も土そのものに生産能力のある限り、種を蒔《ま》いてやれば、実を結ばせるだけの素質を持った土地ならば、それに住む人口は食わせて余りあるだけの生産は、きっと得られます。既に土地が食物を供給しさえすれば、人間をそこに収容し、そこに生活を為さしめ得ないということはありません」
「なるほど――」
「人間が自由を奪われるのは、つまり食えないからですね。それと同じように、人間が人間にたよらずして食えさえすれば、人間は本当に人間らしく生きて行くことができます。さむらいが主君に忠義を尽すというのも、知行《ちぎょう》を貰って食べさせられているからです。知行を貰って食べさせられているから、それで、まさかの時は君の馬前で死ななければなりません。まさかの時でない時、尋常の場合にも、主君というものの前に奴隷の状態でいなければなりません――自分で食うことを知っていれば、知行を貰って忠義を尽す必要なんぞはありません。それと同じように、すべての人が……」
「まあ、待って下さい、お銀
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