その時、お雪ちゃんが胆吹山の方を向いて、
「友さん、あそこへおいでのは、あれは、お嬢様じゃありませんか」
 お雪ちゃんが指したところの林の透間を米友が見ると、
「あっ!」
と舌を捲きました。
「こっちへおいでなさるようですね」
「うん」
「わたしは、お目にかからない方がいいでしょう、さよなら、米友さん」
「まあ、いいよ」
「でも、なんだか、わたし怖いわ」
「ナニ、怖いものか――」
 林の蔭から姿を現わしたのは、お銀様と見られた人の姿ばかりではありません――そのあとに一頭の駄馬を曳《ひ》いた馬子と、馬子に附添って、手代風《てだいふう》なのが一人、つまり、この二人一頭が、恐る恐るお銀様のあとを二丈ばかり間隔を置いてついて来る。お銀様は先に立って、儼然《げんぜん》として、例の覆面姿で歩みを運びながら、ゆらりゆらりとこちらへ向いて練って来るのです。一筋道ですから、それは当然、この米友があらく[#「あらく」に傍点]を切っている現場のところへ通りかかるに相違ありません。
 お雪ちゃんは隠れるともなしに、姿を後ろの林に隠してしまいました。
 米友は再び鍬《くわ》をとって、黙々として木の根起しにとりか
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