かります。
人家のない胆吹尾根《いぶきおね》の原ですから、近いようでも遠く、姿ははっきり認めてからでも、あの通り、ゆらりゆらりと練って来るものですから、この場へ来かかるまではかなりの時間を要します。
お雪ちゃんがこの場を外《はず》したのは、特にお銀様という人に好意が持てないわけではなし、悪意を芽ぐませているというわけでもないのですが、なんとなく気が置けて、不意に当面に立つことをいやがったのでしょう。
米友には、そうしてお銀様を避けなければならない心の引け目というものが少しもないから、引続いて木の根を掘りくずしに取りかかっているぶんのこと。
「友さん」
「何だい」
暫くあって、尋常一様の応対がはじまりました。いつしかお銀様は、米友の丹念な木の根掘りの前に立っている。米友は特に頭をもち上げないで、仕事の手をも休めないで、
「何か用かい」
と答えました。
米友としては、この人が来たために、特に仕事の手先まで休ませて敬意を表さなければならない引け目を感ずるということなく、また、さいぜんお雪ちゃんをあしらったように、ともかくも木の根へ腰を卸して応対するほどの必要を認めなかったのか、それ
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