、米友さんが鷲に追いつくに違いない、追いつけば米友さんのことだから、いきなり鷲に向って組みつくに違いない、いくら米友さんが強いからといって、裸同様の身で、嘴《くちばし》と爪とを持っている鳥の王様にまともに向ってはたまるまい――あれあれ、鷲の仲間が、あの通り、山々から幾羽も幾羽も飛び出して来ました。あれがみんな加勢するでしょう。あれが寄ってたかって米友さんを突っつくに違いない――ああ、天地いっぱいの鷲、米友さんの姿も、それに包まれて見えなくなった。
 星の空はらんかんとして暗い、胆吹山は真黒く、憎らしいほどに落着いている。いつのまにか、大風はやんだのですが、風がやんで、山が澄まし返っているところを見ると、いよいよ胆吹の山というのは、山それ自らが息をする山だというように、お雪ちゃんには感ぜられてなりません。そこからは、地球上のいずれかの低気圧に作用されて起る風とは別に、胆吹自身が持っている呼吸が、夜のある期間には風となってあの通り湧き出すのだ。それが証拠には、山以外の天地はあんなに静かなのに、山自身もまた定期の呼吸というものをやめてしまえば、この通り憎らしいほどの落着きぶり。
 だが、山は
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