先に眼鼻でもついていて、棒の身には翼が生えて、棒のうしろは推進機《プロペラ》でも仕掛けてあるかの如く、真一文字に鷲に向って伸びて行くというよりも、米友そのものが棒に化けて、中空を飛んで、鷲を追いかけに出かけたと見るよりほかはない心持がしました。
「友さん――お前も危ない」
「なあに、大丈夫だよ」
その声は後ろでしないで、中空から聞えて来たからです。
と見ると、繰出して中空へ飛ばせたその棒の上に、早くも米友が馬乗りに跨《また》がっているではありませんか。そうして毬栗《いがぐり》と筒袖とを風に靡《なび》かせながら、一文字に鷲をめがけて乗りつけるのです。
「あ! 友さん」
お雪ちゃんは、ひた呆《あき》れに呆れてしまいました。米友さんとしたことが、音に聞いてはいるけれども、こうまで向う見ずの人とは思わなかった。あれあれ、米友さんに追いかけられて、あの鷲が逃げますよ――逃げるのはいいが、弁信さんを落さなければ――あ、かなわない、鷲の逃げるのよりも、棒に乗って追いかける米友さんが早い、もう、やがて追いつく、鷲は、あれあれ越中の立山《たてやま》の方へ向って逃げるが、逃げ間に合わない、あの分では
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