屋《かじや》ノ婿《むこ》ドンダ
槍モ刀モサシテイル
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と声高く歌い出しました。そうすると女の子も引きつづいて、
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ヘービモムカデモ
ドキアレ
オレハ鍛冶屋ノ嫁《よめ》ドンダ
槍モ刀モ持ッテイル
[#ここで字下げ終わり]
 こうして一時に喚《わめ》き出したかと思うと、その中から一人、火のつくように泣き出したのがあります。与八が飛んで出て見ると、
「おじさん、鶴どんが蛇に噛《か》まれた」
「まむし、まむしだ、こん畜生」
 早くも悪太郎の一人は、当の敵を仕とめて竹の先に貫いて、与八の面前に差出したのは、銭形《ぜにがた》の怖るべき毒蛇であることを知ると、それに噛まれたという女の子を、与八はいきなり取っつかまえて、
「ど、どこを噛まれた、足か、足のここかい」
と言って、その創《きず》へいきなり自分の口を持って行って強く吸いました。強く吸い取ってからそれを吐き出し、子供をもろに抱いて宅の方へ駈け込んで、そこで手早く繃帯《ほうたい》を捲き、自分の口をすすぎ、手当をつくして、それから右の子供を背中に背負って急いで子供の家へ連れて行ってやりました。そうしてこ
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