共に、その競争に堪えられないでしおれる子供たちを見ると、その弊害の尠《すくな》からざることを思いやりました。
 そこで与八は、なるほどお松さんが、子供を見ているうちに、どうしても教育をしなければならないとさとってこれを実行した心持がよくわかり、自分もそこでお松|直伝《じきでん》の教育をはじめることになりました。しかし、これはお松さん直伝の教育というよりも、与八さん独得の説教といった方がよいかも知れませぬ。
 自分がコツコツと石像をきざみながら、板の間へ子供たちを呼び入れて、ねんごろに話を聞かせてやりました。
 話といっても、与八のはお伽噺《とぎばなし》や武勇伝のようなものではなく、みんな、よく遊びながらも、おめぐみということを考えなくてはならねえ、第一父母のおめぐみ、それから目上の人のおめぐみ、国のおめぐみ、世の中のおめぐみ、神様仏様のおめぐみということを考えて、めったに人と争いをしてはならねえ……というようなことを、くどくどと教えるのですが、妙にそれが子供の頭に入るので、神妙に聞いています。
 それからまた、与八は子供たちに、東妙和尚うつしの地蔵和讃などをも口うつしに教えました。
 
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