如く、殊勝なる霊魂復活の思想なんぞはありはしない。
そこで怪奇の目的が、大自然へのあこがれでもなく、大自然力への奉仕、或いは恐怖でもなく、ただそれより以降、六千年の人間の世にうごめく眼前の我慾凡俗の間の、呪《のろ》いと、恨みと、嫉《ねた》みとが生み上げた、復讐的精神の変形として見るよりほかは見ようが無いらしい。
だから、彼女のスフィンクスの怪奇の対象は、彼女自身の、むしゃくしゃ腹の具象変形に過ぎないと思われる。
そこで、この絵像の与うるところの印象は、全体に於てノッペラボーで、部分に於て呪いで、嫉みで、嘲笑で、弛緩《しかん》で、倦怠で、やがて醜悪なる悪徳のほかに何物も無いらしい」
[#ここで字下げ終わり]

 そこで、この何とも言えないグロテスクの一種の力が、与八をして、当然砕かねばならぬものと覚悟をきめていた悪女像に向って、鑿《のみ》を振り上げながら、一種の愛惜《あいじゃく》、未練《みれん》――或いは別な意味での尊重に対する観念を起させたと見えて、金槌を振り上げたなりで、ずいぶん長いことの間、その悪女像を見つめていたのですが、最後に、
「ああ、そうだ、いい工夫がある」
 彼はどういう
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