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「巨大なる蛸《たこ》の頭を切り取って載せたように、頭頂は大薬鑵《おおやかん》であるが、ボンの凹《くぼ》には※[#「くさかんむり/毛」、第4水準2−86−4]爾《もうじ》とした毛が房を成している。巨大な、どんよりとした眼が、パッカリと二つあいていて眉毛は無い。鼻との境が極めて明瞭を欠くけれども、口は極めて大きく、固く結んだ間へ冷笑を浮ばせている。頭から顔の輪郭を見ると、どうやら慢心和尚に似ているが、パッカリとあいた眼は、誰をどことも想像がつかない。だが、そのパッカリとあいた、力の無いどんよりとした眼が、見ようによっては、爛々《らんらん》とかがやく眼より怖ろしい。かがやく眼は威力を現わすけれど、この眼は倦怠を現わす。威力には分別を含むものだが、倦怠は侮蔑のほかの何物をも齎《もたら》さない。
お銀様のこしらえたのはスフィンクスです。だが、古代|埃及《エジプト》の遺作に暗示を得たのでもなければ、模倣したのでもなく、或いはまた直接間接に、その材料を取入れたわけでもなんでもありません。全くお銀様独得のスフィンクスだということが一見して直ぐわかる。
たとえば、復興時代のエジプ
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