る建物が出来ました。
 この新居に納まった与八。
 その次の仕事として、いったん取除けた土を清めて塚を築き直し、巨石を洗って別に新たなる台座をこの上に載せました。してみれば、やっぱり何物をか新たにその台座の上に建てようとの目論見《もくろみ》に相違ない。
 かくて与八が、再び抱き起して、作事小屋へ抱え込んだのは、グロテスクの本尊、悪女塚の女人像《にょにんぞう》でありました。
 与八は、そのグロテスクな石像を作事小屋に担ぎ込んで、後ろの糸革袋《いとかわぶくろ》の中から取り出したのが金槌《かなづち》と石鑿《いしのみ》です。それを両手に持って、小屋の中へ立てかけた悪女の女人像をじっと見据えました。
 暫く見据えていたが、やがて立って、悪女人像の顔面の真中ほどへその石鑿をあてがって、右手の槌は早くも頭上に振りあげられたところを見ると、与八はまず最初の鑿で、このグロテスクの顔面を一撃の下に打ち砕こうとする心構えに相違ない。
 ここまで意気込んだが、この男が少し躊躇《ちゅうちょ》しまして、さてまた改めて、つくづくとグロテスクの悪女人の面貌を見直して躊躇しているのは、今更、この石像の持つ深刻な憎悪と醜
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