の暴女王は、おそらく怒りが心頭にのぼる時は、この馬鹿者を押えて焼き殺すかも知れない、殺すかも知れないではない、事実、先日の大火に家を焼き、仮りにも母と名のつく者、弟の縁につながるものを、同時に焼き亡ぼしてしまったのは誰だ。
ここに、知らぬが仏の風来の愚か者に対して、そのことを思いめぐらして、当然近き将来に来《きた》るべき残忍極まる刑罰の日を予想する村人の心配には、根拠がある。
しかし、この馬鹿みたような当人は、相変らず天下泰平で、その馬鹿力を応用し、さしも人と土石との労を尽したグロテスクの建造物を、数日の後には苦もなく破壊し尽して、そうして名残《なご》りもなく、そのあとを平げてしまいました。
その一隅へ自分で建てた掘立小屋。
材木も、大工も、惜しむところなく供給してやると主人が言ったに拘らず与八は、この住居をも自分の手一つで建ててしまいました。当然それが掘立小屋に毛の生えた程度のものであるには相違ないが、それでも、床は上っているし、壁もついている、ただ、木口だけはなかなか贅沢《ぜいたく》だから、素人《しろうと》建築とはいえ、貧弱な感じはせずして、かえってガッシリして変った味のあ
前へ
次へ
全208ページ中184ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング