います。それで旅へおいでになったお嬢様がお帰りになって、お腹立ちになりました時は、与八ひとりが罪を着まして、どういうお咎《とが》めを受けましょうとも、罰を蒙《こうむ》りましょうとも、覚悟をいたすつもりでございます。ですから、あの塚の取崩しから、地形地均《じぎょうじなら》しから建前《たてまえ》まで、みんな、わしら一人の手でやってみてえと、こう思ってるんでございます――お嬢様からお咎めのあった時、わしら一人が罪をきるつもりで……」
「えらい、よく言ってくれた、お前でなければそういうことを言ってくれる人はない、では、いいからおやり、塚を崩そうとも、像を壊そうとも、お前さんの思い通りにおやりなさい」
 伊太夫がここではじめて、凜《りん》とした親権者としての気前を与八の前に示しました。その言葉によって見ると、よしよし、お前ばかりにその罪はきせない、今度こそ娘が帰って来て、留守中にこの男のやった仕事に不服があるならば、主人として、親としてのこの伊太夫も、立派に権威を見せるという腹をきめたらしい。
 こういう諒解のもとに、その翌日から与八は、悪女塚の取崩しにかかったのであります。
 そうして、この工
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