那様、旦那様がお困りなさるわけを、わしも人様に聞いてよく知っておりますが、旦那様の御迷惑はみんなこの与八がかぶりますから、どうか、あすこんとこを、与八に貸してやっておくんなさいまし」
「与八――お前はまた、何か了見《りょうけん》があって、特にあの場所を所望するのかね」
「え、了見があるんでございますよ、早く申し上げてしまいますとね、旦那様、結構なこのお邸《やしき》の中に、あんな不祥な建物があるのはよろしくございませぬ」
「それはよくないにきまっている――よくないにきまっているけれども、それを親としてのわしがどうにもできないでいる浅ましさを察してくれ、さわらぬ神に祟《たた》りなしとはあのことだ」
「祟りがあっても、わしらかまいません、わしらの身の上に祟りがあることなんぞは、いくらありましょうとも、かまいません、お屋敷のうちにああいうものを置きますと、いよいよ悪気が籠《こも》って――この末のことも想われますから、わしがひとつあれを取払って、そうしてそのあとを清めてから、片隅へわしらの家を建てさせていただきまして、それからわしらはまたあの土地へ、悪女塚に代る供養を致してえと、こう思うんでござ
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