いますが、どうも旦那の思召しが有難え上に、なんだか旦那のお胸のうちを考えてみますと、わしもひとりでに涙がこぼれるような気になりますでなあ、ああおっしゃられなくても、急にこのお屋敷をお暇《いとま》申す気にはなれねえでいるところでございます、新屋を一つ建てろとおっしゃって下さることは、直ぐにここで御返事ができます、どうかそうさせていただくことに願《ねげ》えます。なに、郁坊とわしの二人で臥起《ねお》きをする場所だけあればいいのでございます、いつまでもこうして、納屋に居候をさせていたでえておいてもいいのでございますが、納屋はまた納屋で用向があるでございますから、人間は人間として狭くとも一軒別にあてがっていただけば、こんな有難えことはございませぬ」
「うむ、よく言ってくれた、じゃあ早速、今日からでも、お前の好きなところへ地取りをしなさい、どこでもいい、そうして材木はいくらでも出してやる。大工も左官も、みんなあてがってやる、大きくとも小さくとも、お前の好きなように地取りをして、絵図面を拵えてごらん」
「はい、どこまでも有難えことでございます――それなら早速、明日からでもそういうことにお願え申すこと
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