はずはない。それだから父としては、むしろ、それに触れることを他に向って差止めようとも、それに一指を加えろなんぞと指図をするはずはないのです。そのくらいなら、最初こんなものを建設するその時に差押えてしまっているでしょう。
唯一の親権者たる人でさえ、それに触るることを怖れているものに対し、それ以外に命令を下して、この馬鹿みたような男をそそのかす人があるとも思われない。よしあったとしても、風来の与八として、それを用うべくも従うべくもあろうはずはないのです。
してみれば、これは当然――当の暴女王の直接命令でない限り、事に従事している者の無知がさせる業でなければならない――与八は馬鹿みたような男だから、その辺にいっこう無頓着で、こういう暴挙に平気で取りかかっているものらしい。
だが、それにしても親権者たる伊太夫の黙認がない限り、こんな仕事が平然として続けて行けるべきはずはないのですから、伊太夫も命令こそ下さない、許諾《きょだく》こそ与えないけれども、与八の為《な》すことに相当の諒解を持っていることには相違ありますまい。
もちろん、その通りです――ある晩のこと、例の如く伊太夫は、与八が米を
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