見合わせましたが、
「うちへ連れて行って飼って置きてえと思うんでがす」
「そうですか、餌《えさ》には何をやるつもり?」
と、お銀様から畳みかけられて、二人はまた面を見合わせてしまい、
「さあ――」
「何を食べさせて置きますか」
「そうだなあ――何をったって、こちとらの身分じゃ、特別のものをあてがうわけにもいきましねえから、粟《あわ》や稗《ひえ》を、わしらのうちとら並みに食べさせて、育ててみてえと思っとるでがすが」
「それは、いけません」
と、お銀様は二人の農夫の言い分を頭から蹴散らしたものだから、彼等も眼を白黒させ、
「いけませんかねえ」
「鷲という鳥は、粟や稗なんぞを食べやしません」
「そうですかね」
「そうだともさ」
「では、何を食べさせたらよろしうござんしょうね」
彼等はお銀様に向って憐みを乞うもののように教えを仰がんとする体《てい》です。彼等は、ただ、この猛禽の子を見つけ出したという興味と、それを捕えることの緊張さから、正当の職業である薬草取りの一日の業を抛擲《ほうてき》してしまって、生命《いのち》がけでこの一羽を巣の中から捕獲して来は来たものの、その前後の処分法については、
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