があって、我々の行手を遮り、その威光を汚そうと企てるのは、つまり大公儀そのもの、神祖の御威光を無視するも同様である。なるほど、石田治部少輔の故郷なればこそ、これを捨て置いては御威光にかかわる。
 検地の役人は、多分そんなふうにまで憎悪《ぞうお》が進んでいったらしい。そこで、いったん怒りが鎮まれば聞き置かるべきことも、いっさい耳を閉《とざ》され、お詫びがかなうべきこともかなわない形勢に悪化したのは是非もありません。名主に預けっぱなしで置いて、やがて御免のあるべき性質のものが、そこから長浜へ正式に護送という段取りになったのは、情けない出来事です。
 誰が何と言っても、この地名が石田であり、三成であることの限り、救われない事態となってしまった! よしこれらの長持をかついで来た若衆《わかいしゅ》が、実は中仙道筋の柏原駅外の若衆であって、彼等は何故に、こんなに勢いこんで長持をかついで来たかといえば、それは昨日、駅外で素人《しろうと》芝居を催した時に、その衣裳道具を長浜の然《しか》るべきところから借り出して来た、それを芝居も無事に打上げたから、多少の礼物をそえて、こうして若衆手揃いで返しに行く途中
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