止まらない限り、米友も止まれない。無軌道に走って行くのは是非もなく、走れば走るほど、街道の役人の一行と民衆との混乱の現場から離れて行くのは是非もないことで、しかし、これだけを以て見れば、それは検地役人一行のためにも、米友のためにも、むしろ幸いであったということを、米友の知れる限りの人が是認し且つ安心する。
一方怒髪天を衝《つ》いて、片っぱしからちかよる民衆をひっくくり上げた検地役人の一行は、いったいこの村は何という村? と詰問した時に、江州《ごうしゅう》石田村と聞いて、また彼等の心証を悪くしてしまったのは、やっぱり時の運でした。
「ナニ? 石田村、江州石田村? ではあの逆賊治部少輔の生れ故郷だな、道理で!」
役人がグッと胸にこたえたこなし[#「こなし」に傍点]です。
実際、その通りでした。ただ、石田村だけでは何のカドも立たない平凡な村名ですけれども、石田治部少輔三成の生れ故郷とあってみると、事が大きい!
二十三
石田治部少輔三成は、畏《かしこ》くも神祖家康公に向って、まともに弓をひいた逆賊の巨魁《きょかい》である。
さればこそだ、ここに不逞《ふてい》の徒
前へ
次へ
全208ページ中169ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング