は、検地の役人の一行の余憤でこの馬が、イヤというほど尻っぺたをひっぱたかれたから、それでこうして暴れ出して来たのだとは思いもよりません。何かに驚かされて馬が暴れ出したのだが、何がこの馬をこんなに暴れさせたかということの詮索《せんさく》よりも、この際、この通り暴れ出した現場を取抑えることが、第一の急務でなければならないと悟ったのです。
そこで、一途《いちず》に取抑えに向ったけれど、本来、馬を取抑えるということは、向って来る奴を行手に立ち塞がって取抑えることの方が遥かに容易なので、それを追いかけて抑えるという段になっては、かなわないのがあたりまえです。なぜならば、四ツ足と二本の足です。ことに米友のは、その二本の足も一本は不満足なのですから、それで馬と競争はまず覚束《おぼつか》ないと思わなければなりません。
しかし覚ついても、つかなくても、それを追わなければならない急場の形勢でしたから、どうもそのほかに仕方がありません。
群衆の中へ追い込まれて、また更に群衆から驚かされた暴れ馬は、畔道《あぜみち》を、ただもう走れるだけ走っている、その後を米友が懸命に追いかけているのです。ですから、馬が
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