近づく奴等は誰彼の容捨がなく引捕えて、ぴしぴしと縄をかけられるのです。
ですから、混乱の上に、大恐怖が加わりました。
相手が悪い!
全く相手が悪いに相違ない、お代官となれば、小大名のお代官でも大抵、怖《こわ》いものの看板になっている。それが大公儀直通の検地お代官なのだから始末が悪い!
みるみる引っくくられたものが束になって、幾十人というもの縄つきが、田の中にも、道の傍にも押し転がされてしまいました。村の相当の口利《くちき》きがお詫《わ》びに出て来ても文句を言わさず、それもぴしぴしと縛り上げられてしまうのだから手がつけられません。
かかる時、宇治山田の米友はどうした。それだけが一つ、この際の仕合せでありました。米友はこの騒ぎの途端に、表へは出ないで裏へ廻ったのは、お代官の鋭鋒をそれと知って避けたわけではなく、それと知れば、よかれ悪《あ》しかれこの男としては、役人のぴしぴし人見知りなくふん縛る現場へ飛び出して来ずにはいられないのでしたが、米友がそこへ出ないで裏へかけ出したというのは、ひとり難を避けるという気になったのではなく、暴れ出した駄馬を取抑えんがためでありました。米友として
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