来て、鳴物入りの踊りのあるということを認めたのは同じで、同時に彼等の好奇心が、やっぱり両替の一行と同じように、この地方古来特有の名物、雨乞踊りの古雅なるものをのぞきたいとの慾望から、ワッショイの気勢を頼んで、そうして彼等は総くずれになって、ドヤドヤと祭の庭になだれ込んだのは是非もなく、それは同じ道草にしても、両替の一行の方はみんな相当の穏かさを持っているのに、ワッショイの方は、血気盛りの若衆揃《わかいしゅぞろ》いですから、むやみに気が強くなっていてたまりませんでした。今まで景気よく担《かつ》ぎ上げて来た長持は大道中へおっぽり出して、立見の総見になだれこんだのです。せめて、もう少し老功者でもいたことならば、同じおっぽり出すにしても、多少は道の傍らへおっぽり出して置くだけの遠慮はあったでしょうが、気の強い若い者の集まりだけにそれが無かったのです。こうして、石田村の祭の庭は踊りに繁昌しましたけれども、前の街道には馬と箱とが狼藉《ろうぜき》におっぽり出されているところへ運の悪い時は悪いものです。
 そこへ例の老中差廻しの検地の役人の一行が、東の方から威儀堂々として通りかかったのです。
 そこで
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