安をまで禁止してしまわなければならないほど、事態が切迫しているとは思われない。そこで、米友としては、肯定とも否定ともわからない返答をしているのだが、事態はそんなことには頓着せず、番頭も、馬子も、呑気なもので、馬を道わきへ置きっ放しにして、早くも雨乞いの踊りの庭へ乗込んでしまったのですから、米友もいまさら甲乙を言うべき隙間もなく、自分もつい引込まれて、その祭の庭へのぞきに行きました。
それが、ただこれだけなら、まだよかったのでしょうが、ちょうどそれとほんの少しばかり遅れて、東の方、北国脇街道を経て来たものと覚しい、ワッショイワッショイが一つありました。
このワッショイワッショイは、あの名古屋の枇杷島橋《びわじまばし》で道庵を挟撃したそのファッショイ連とは違って、これは、三ぴんでもなければ折助でもなく、正銘のこの地方の若い衆が大勢、景気よく一つの長持を担《かつ》いで、飛ぶが如くに、こちらへやって来るのでありました。
両替の馬と番頭米友らの一行が、祭の庭を見ることがもう一足|後《おく》れたなら、当然ここでバッタリと鉢合せが起ったのでしょうが、その間に二三分の差違があったのですが、ここへ
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