、お代官だのという連中に出くわすよりも、出くわさない方がいい、というのは、馬を除いた一行の、すべての心持です。ただ、番頭たちは戦々兢々《せんせんきょうきょう》として被圧的におそれているのだが、米友のは、小うるさいから会いたくねえという癇癪《かんしゃく》の一種に過ぎないだけの相違です。
かくして左右は一団になって、畷道《なわてみち》のようになっている広い道を石田というところまで来ると、果して――ここででくわしてしまいました。
単にでくわしたといえば、そりゃこそお代官――か役人と合点するでしょうが、そうではないのです。多くの人民が、その石田村の庭場の内外に溢《あふ》れ返っているところへ、この一行が通りかかったまでのことです。
「さては、一味ととうか!」
と米友が意気込んでみたが、忽《たちま》ちその意気込みを、いともなごやかに解消してしまった糸竹の音。群がる群衆の中から、笛や太鼓の鳴り物が賑《にぎ》やかに聞え出したものですから、米友は忽ち安心しました。いかに泰平な世の中とはいえ、三味線太鼓や笛つづみで百姓一揆を……てなものはありそうもない。
お祭だ! お祭の一種に相違ないという観念が頭
前へ
次へ
全208ページ中161ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング