したって、そう遠いところではない、目と鼻の間、呼べば答えるところにあるあの胆吹山の麓のことだから、同じ用心棒でも、東路《あずまじ》の道のはてから遥々《はるばる》の用心棒とは違う――ではひとつ追いかけてやろう。
米友は教えられた通りの道を追いかけました。来た時の道を帰れば、石田、大原から北国|脇往還《わきおうかん》を横切って春照《しゅんしょう》に出るのだが、帰る道としては七尾へ廻るだけのものです。
かくして米友は、教えられた通りに、両替の馬のあとを追いました。
ところが、いよいよ心配無用、裏道の棒鼻まで廻る必要はなし、早くも町の真中で、ぱったりとその馬に出くわしてしまいました。無論、馬の脇には番頭と馬子がちゃんと無事に附いているのです。ただ違ったのは、馬が夥《おびただ》しく荷物を背負わせられている。夥しいといっても、それはカサだけで、正味はそんなに重いものではない、新生活に必要な家具類が――行燈《あんどん》からとうすみ[#「とうすみ」に傍点]に至るまで、積めるだけ積込んである。見た目のカサは大したものだが、重量はそんなではないから、馬は平気な面をしてのこのこと歩いて来る。
「兄さん
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