ように唸《うな》ったのは、右の草ッ原へ集まった連中を回想して言ったのであるが、言い廻しがぶっきらぼうであったために、そうは聞えないで、この浪人ものそのものが一味ととうの片割れだな、そのものに向って貴様も一味ととうの片割れだなと呼びかけたように響いたからでしょう。
 しかし、米友は即座にそのつぎ足しをして次の如く言いました。
「気の毒なことに、あの草ッ原に集まった人たちは、その検地のお役人とやらにぶっつかれば、もうどうしても遁《のが》れられねえ一味ととうになっちまうだろう、一人残らず佐倉宗五郎になるのか――どうもかわいそうだ」
 そこで浪人者は、自分のことを言いかけられたのでないと安心し、
「いかにも、ああなってはのがれられない一味ととうだ、すべてがみんな佐倉宗五郎の気持だろう」
「うむ――」
「役人につかまって一味ととうの片割れと思われてもつまらん、人民の方へ廻って間者《かんじゃ》と間違われてもあぶない、だから帰る時はよく気をつけてお帰りなさい」
「どっちみち、早く帰らなけりゃならねえ、御免よ」
と言うと米友は、ムラムラと自分の使命のほどを思い迫ったものだから、そのまま挨拶もなく、もと
前へ 次へ
全208ページ中157ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング