ゃどうだ、その上になお人をつかめえて貴様たあ何だ、恩も恨みもねえ人間をつかめえて、いきなり貴様たあ何だ」
と啖呵《たんか》を切ったものですから、浪人とはいえ、武士の手前、この雑言《ぞうごん》にムッとするかと思うと、釣を楽しんでいる浪人はかえって和《なご》やかに笑いました。
「ハハハハハ、それは済まなかった、なるほど君のいう通り、一概に君を子供扱いにしたのはよくなかった、それに、ついどうも、荒っぽいこの辺の浜者を相手にしているものだから、こちらも口がきたなくなった、許さっしゃい」
「うむ」
と、米友がうなずいたものだ。許すとも許さないとも言わないで、いきみ返って立っていると、右の浪人者はよほど何か面白い感じがしたと見えて、かえって向うからいよいよ打解けて来て、
「まあ、君、急がなければここへ坐って少し話して行きたまえ」
そういうふうに出られると、米友もちょっと癪《しゃく》の虫がおさまって、言われる通りに坐り込む気にもなれないが、そうかといって荒々しく砂を蹴って立去るにも及ばないという気になると、
「君のその言葉つきによって見ると、君が、この土地の人間でないことは明らかだ、この土地の人間
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