あれがその一味ととうというものではねえかしら」
 そうだとすれば、気の毒なことでもあり、危ねえことでもある。うむ、そうだ、お代官とか、御領主とかがやって来ると言ったけな、それを思い合わせてみるてえと、いよいよ何か事がありそうだ。お代官なり、御領主なりというものが、東の方からやって来るという先ぶれと同時に、あの連中が舟で西の方から乗りつけて来る、なんだか気のせいか、そこいらで正面衝突が起りそうだぜ。
 そういうことが起らなければいいがなあ。まだそういうことが起りそうだとも何ともきまったわけじゃねえが、どうやら、そうなりそうなあんべえ式だと、おいらの頭へピンと来るよ。万一、事がそうなった日にゃあ大変だからなあ。つまり一揆《いっき》暴動なんだろう、戦《いくさ》の卵と同じわけさ、内乱だね。江戸は江戸で浪人者があばれ廻ったり、貧窮組が起ったり、江州の長浜へ来れば長浜でまた――厄介なものだて、どこへ行っても世話がやける世の中だ――だがおいらはもう知らねえよ、そういちいち人の世話ばかり焼いていた日にゃ、第一こっちの魂が焼け切れちまあな。
 おいらあ知らねえよ――
 と、わざと横を向いた米友は、再び湖
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