お祭があるようなあんべえでもなし、おやおや、あの草ッ原のかげにみんな坐り込んじまったぞ。ははあ、何か相談事でもぶつんだな、相談事にしちゃ少し様子が穏かでねえな」
事実、人の集まりは無慮二百はたしかのようです。それらのものが、町の方からは来ないで、舟で乗りつけて来て、無言であの草ッ原へ円くなったということは、穏かでない気分が漂う。
例えば、お祭の相談事だとか、お日待の崩れだとかいうものならば、場所柄としても、神社の拝殿とか、お寺の本堂とかを借りたらよかりそうなもの。
かといって、船の団体で遊山保養をしての帰りがけの一行らしくもない。その乗りつけた船には何の飾りもなく、第一、集まった人がおもに中年ものの男で、それが簑笠《みのがさ》こそつけない、竹槍こそ持たないが、いずれも大げさにいえば一道の殺気粛々として、そうしてあそこへ集まってからに、大陽気に歌い出すものなんぞは一人もないのです。
だから米友は、なんとなく穏かでないと感じた時、はじめて、さきほど高札場で読んだお定書《さだめがき》、その色と木理《もくめ》の新しいのがピンと頭へ来ました。
二十
「ことによると、
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